研究テーマ

(1)企業発展に関する原理的考察

「企業とは,いかなる存在なのか」

 

これは,経営学だけでなく,社会科学全般にわたって問われ続けている大きなテーマの一つです。 この問いに対して,私はオーストリア学派の知見,なかでも「価値の主観性」と「知識の不完全性(非完結性)」に立脚しながら,ドイツ経営経済学での学問的蓄積を活かして,「価値創造」と「価値交換」,そして,それを方向づけ実行する諸活動からなる「価値動態」として企業を捉えることを試みています。

 

もう少し具体的にいうと,ドイツにおける代表的な経営学者の一人であるコジオール(Kosiol, Erich : 1899-1990)と,その門弟(Seminalisten)たち=コジオール学派において展開された諸理論を再構成することを通じて,そして,その基礎となっている考え方を洗い出すと同時に,さらに展開させることを通じて,この課題を明らかにしようと試みています。

 

さしあたって,山縣正幸[2010b](論文:査読なし;No.11)において,コジオールとその孫弟子にあたるキュッパー(Küpper, Hans-Ulrich)の所説を検討しています。

(2)ビジネス・リーダーシップを基軸とする経営管理の理論的研究

ドイツ語圏の経営学(経営経済学)において,経営管理機能はさまざまな表現で説明されています。そのなかでも中心的な位置にあるのがUnternehmungsführungです。これは,企業管理もしくは企業指導,あるいは企業統率と訳されています。つまり,企業をどのようにして発展へと導いていくのか,ということが問題となっているわけです。「ビジネス・リーダーシップ」と言い換えることもできるでしょう。

 

私は,ドイツ語圏における企業管理論(Die Lehre von der Unternehmungsführung)の代表的な研究者の一人であるブライヒャー(Bleicher, Knut:ザンクト・ガレン大学名誉教授)によって提唱された『統合的マネジメント構想』,そのなかでも特に重視されている,トップ・マネジメントの役割としての『規範的マネジメント』の枠組に依拠しつつ,関連する諸理論を検討しながら,「ビジネス・リーダーシップとはいかなる内容をもつのか」という点について,考察しています。

 

その際,とりわけ(1)の研究テーマとも関連して,「企業という存在が,いかにしてその正当性を獲得しようとしているのか」に焦点をあてて議論を展開しています。

 

これについては,山縣正幸[2007](新装版:山縣正幸[2010])で研究成果を公にしました。

(3)ドイツをはじめとするヨーロッパにおける企業モデルの探究

ヨーロッパ諸国においては社会経済的・歴史的背景の違いから,さまざまな企業モデルが存在します。その一方で,ヨーロッパ連合(EU)の成立によって,社会的・経済的にもさまざまな点で統合が図られています。

 

そのなかでも特に注目したいのは,労働や人権をはじめ市民の生活にかかわる社会的側面や自然環境保護の重視とともに,グローバル化する競争環境のなかで,いかにして優位を確立するのかという経済的側面の重視を両立させる社会経済モデルを構築しようとしている点です。

 

そういったなかで,どのような企業モデルが構築されつつあるのかについて考察したいと考えています。今までのところ,これについては,山縣正幸[2008a]や山縣正幸[2008b],山縣正幸[2009]において検討しています。

(4)経営学史の研究 ―特にドイツ語圏を中心に―

経営学史というと,しばしば「過去の理論についての(とりあえず喫緊ではない)研究」というような印象を抱かれることも少なくありません。しかし,現在生じている経営の諸問題を考えるうえで,過去の理論が役立つ場面はきわめて多いのです。そして,経営学の知的伝統を学ぶことで,自らの企業観,経営観を照らし返すことも可能になります。その意味において,経営学史というのは,経営学のなかでも重要な領域の一つなのです。

 

そのなかで,私はドイツ語圏における経営学の知的伝統を明らかにする作業を続けています。ドイツ語圏では,経営学は経営経済学(Betriebswirtschaftslehre)を中心として,経営社会学(Betriebssoziologie)や経営科学(Betriebswissenschaft)などの枠組において展開されてきました。私は,経営経済学の展開をたどりながら,その生成背景も踏まえて,ドイツ経営学の知的伝統の特色などについて明らかにしたいと考えています。

(5)社会科学の基礎的諸概念や方法論に関する研究

経営学は社会科学に属しています。となると,当然ながら社会科学における基礎的な諸概念や方法論についても検討が必要となります。その際,社会科学全般に共通するものと,経営学特有のものとがあります。そういった点も含めて,経営学を考えるうえで,いかなる基礎的な諸概念や方法論が有効であるのかについて検討したいと考えています。

(6)世阿弥の芸論を経営学の観点から読む

世阿弥(秦 元清:1363?~1443?)は,能楽を大成した人物として有名です。また,「初心忘るべからず」などの言葉でも知られています。彼は,多くの芸論・能楽論を執筆しています。それらは,もちろん能役者に向けて書かれたものですが,当時の結崎座(現在の観世流)を率いていたという彼の立場上,「いかにして,一座を繁栄させていくのか」がつねに念頭に置かれています。それゆえ,彼の芸論・能楽論には,きわめて経営学的に興味深い言説が溢れています。

 

そこで,世阿弥の芸論・能楽論を経営学の観点から読み解き,現代の私たちにとって学びうる点は何かについて考えたいと思います。

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なお,恐縮ながら,この科目は経営学科の学生(2回生以上)しか履修登録できません。

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